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「今も残る昔の面影 vol.3」  史蹟史料部所属 歴史友の会(2023年3月号)

28 Feb 2023

 


 


史蹟史料部


 今回も、もともとの建築物を改装し、同じ、または別の利用方法で使用している建物について取り上げます。さらに今回は、移動したり、レプリカとして保存している物にも注目します。例えば、かつてシンガポールに存在していたNational Theatre (1963〜1986)は、Alfred Wongがデザインした5つの尖った正面デザイン(国旗の5つの星を表す)のある特徴的な建築物でした。現在はそのレプリカがFort Canning Park内に残されています。また、壁画家のYip Yew Chongさん、イラストレーターのLee Kow Fongさん、Lee Xin Liさん等の作品の中には、現在は全く残されていない建造物も見ることができます。かつてマレーシアへと続いていたTanjong Pagar駅、寺院、モスク、教会等は仮に移設していたとしても、およそ同じ姿を残しています。興味をもたれた方は実際に足を運び、その空気を感じていただけたら嬉しく思います。


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Merlion(マーライオン)の移動


 マーライオンは、1972年9月15日、シンガポール川の河口、小さな岬に完成しました。2022年に50周年を迎え、同年9月15日から1ヶ月程「50」の文字をプロジェクションマッピングでマーライオンに映し出した姿を御覧になった方も多いと思います。
 1972年当時、正面からマーライオンを見るためには、船から見なければならなかった為、大きいマーライオンの後ろに「小さいマーライオン」が建てられました。しかし、ポンプの故障やエスプラネード橋が架けられたことによって、さらに見えづらい存在となってしまいました。
 そこで、2002年4月28日、小さいマーライオンと共に現在の埋立地にS$165,000かけて移されました。現在、マーライオン公園には、移動についての石碑も残っています。


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Telok Ayer Market (Lau Pa Sat) テロック・エア マーケット(ラォパサ)


 木造・ヤシ等の屋根葺きの魚市場として1823年に開業しました。安全性の懸念から、1833年ジョージ・D・コールマン設計の新しい市場が建てられました。1879年、埋立工事のため、新しく埋め立てられたCollyer Quayに移され、1894年に営業を再開しました。
 1970年代に入り、周辺を商業・金融地区にしようという計画には、市場はふさわしくないとされ、1972年にHawker Centreとして生まれ変わり、1973年国定記念物として正式に公告されました。80年代の線路敷設工事の際や、2014年の大規模な改修工事の際に丁寧に修復され、東南アジアで最も古いビクトリア朝の建造物の1つです。


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The Cathay(ザ・キャセイ)


 1939年にシンガポールに初めて建てられた高層ビルです。地上階には初めてエアコン完備の映画館があり、アメリカとイギリスの映画を上映しました。その他にもCathay Hotelやレストランが入っていました。   
 2003年に国定記念物として正式に公告され、大規模な再開発の後、2006年現在のThe Cathayとして再開しました。(2022年に営業を終了しています)
 ちなみに井伏鱒二の小説「花の町」にも「カセイ・ビル」として登場します。


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The Grandstand  (ザ・グランドスタンド)


 Singapore Turf Clubは、1842年にスコットランドの実業家William Henry Macleod Readによって設立されました。今日、シンガポール唯一の競馬クラブで、競馬と馬券のサービスを提供する唯一の公認運営クラブです。  
 シンガポール初の競馬場は、現在のFarrer parkに建設され、1843年に最初の競馬が開催されました。1933年に写真のブキティマに移転した後、1999年に現在のクランジにあるシンガポール競馬場へ移転しました。
 現在このブキティマの競馬場は、学習施設など子供向けのセンター、レストランなど様々な店舗が集まる複合施設「The Grandstand」として営業中です。


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Singapore National Library (シンガポール   ナショナル ライブラリー)の入口の柱


 旧国立図書館は1960年11月、Yusof Bin Ishak大統領によって正式に開館されました。鉄筋コンクリートの骨組みにレンガの壁を採用した様式は、1950年代のイギリス建築の赤レンガをイメージした建築と言われています。
 2004年にSMUFort Canningトンネル建設のため閉館し、2005年に現在のビクトリア通りで再開しました。
 2020年にオープンしたシンガポールマネージメント大学は、新しくキャンパスを建設する際、歴史とキャンパスを結び、Stamford Greenへ続く玄関口になるよう、入口の2本の赤レンガの柱と鋳鉄の柵を後世に残すことを選択しました。


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Shake Shack  (シェイク・シャック)


 この建物は、1924年に89 Neil Roadにタイガーバームの生産工場として設立されました。もともとはビルマ(現ミャンマー)で家業の薬品製造を継いだ福建省出身の兄弟Aw Boon HawAw Boon Parがシンガポールに移住し、1920年代までにTiger Balmなどの医薬品を製造、販売し大成功を納めました。 
六角形の屋根(キューポラ)がタイガーバームの瓶の原型となりました。 
 現在、この建物は2020年からShake Shackが営業し、タイガーバームに敬意を表し、店内には虎の壁画があります。
 ちなみに1937年、兄弟が作ったタイガーバームガーデン(現ハウパーヴィラ)も有名です。


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Sri Mariamman Temple (スリ・マリアマン寺院)


 南インドからの移民がマリアマン女神を崇拝するために建立した、シンガポールで最も古いヒンドゥー教寺院です。 
 ペナン出身の政府書記官Naraina Pillaiは、1819年Stamford Rafflesと共にシンガポールを訪れ、1827年に椰子の葉と木造の寺院を設立しました。1843年にレンガで再建されましたが、現在の建物の多くは、1862年から63年にかけて建てられたと考えられています。
 1973年には国定公園として正式に公告されています。また「マリ」はタミル語で「雨」を意味し、農村生活において重要な生命維持の要素であり、マリアマン女神は病気を治す神としても知られています。


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出典1:「Singpore - A Pictorial History 1819-2000 p.349
出典2:「Singpore - A Pictorial History 1819-2000 p.349
出典3https://www.davidandfamily.com/English/114sg15-river002.htm(閲覧日:20217月)
出典4https://www.nas.gov.sg/archivesonline/photographs/ (閲覧日:20217月)
出典5:「Singapore 500 Early Postcards p.184
出典6https://www.roots.gov.sg/Collection-Landing/listing/1193161(閲覧日:20217月)
出典7https://www.straitstimes.com/singapore/transport/mrt-station-will-affect-heritage-of-former-bukit-timah-turf-club-but-areas-value-can-be-retained-report(閲覧日:202212月)
出典8https://www.roots.gov.sg/places/places-landing/Places/surveyed-sites/Former-National-Library-Stamford-Road-Entrance-Pillars(閲覧日:20217月)
出典9:写真提供:猪股千春
出典10https://www.ricemedia.co/current-affairs-features-tiger-balm-rise-fall/(閲覧日:20217月)
出典11https://wiki.sg/index.php?title=Tiger_Balm&mobileaction=toggle_view_mobile(閲覧日:20217月)
出典12:「Singpore - A Pictorial History 1819-2000 p.134


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文責・写真:史蹟史料部歴史友の会
伊地知ふゆ彦・由美子


 

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